茶色くてよく延びます
BONの安カセット





今の100円ショップとか行って見て驚くのは、売っている製品のメーカーが、一応皆さん周知のメーカーであること。ほんの10年前まではこんなじゃなかった。ディスカウントショップで売っている製品なんて、ほとんど聞いたこともないような、バッタモンのメーカーばかしだった。イヤホンでも、一応ステレオなんだけど、耳に入れようとすると妙にゴワゴワする粗悪なプラステック使用品で、しかもステレオの筈なのにモノラルにしか聞こえない。そんな物ばかりずらずらと並んでいる店内は妙に薄暗く、奥には決まって3流メーカーの製作したジャケットからして萎えてしまうエロビデオがずらり。店内の湿気を帯びた空気、レジにいる目の据わっている50代のオバサンは、小型テレビのワイドショーに夢中。こんなところいつまでもいちゃあいけない、早く逃げ出そうと、入り口近くまで駆け出してきたとき、足に当たったカゴ一つ。ふと見ればそのカゴの中には、カセットテープが山積み。「なんだ、カセットあったのか、お、100円か。今日の電リクとるテープ切れちゃったし、一つ買っとこうか!」カセットを取り上げる。普段のより妙に軽い。妙に薄手のプラケース。半分しかない紙製のインデックス。なんだこれはとメーカーしげしげ眺めればそこには太ゴシックでデカデカと、

「BON」。


・・・てな状況の中でしか手に入れられなかったカセットテープのメーカーが、われらが「BON」なのである。今でこそカセットとビデオテープの値段は急落したけれど、その当時安売りのカセットなんていったら、このBONしか無かった。上の写真をよく見てください。まずインデックスに一面紙が貼り付けてあります。シールも何も入ってない、ここに直にタイトルを書き込むのであります。ちなみにこれは私が小学生時代撮っていたテープで、内容は当時の電リクと、愛国党党首・赤尾敏先生の政見放送であります。小学校の時からそんな趣味だったんだ。やな餓鬼だね。
そして質の悪いプラスチックを全面に使っているからまあ軽い軽い。うかつに落とすと、二つに割れたりします。そして肝心のテープ、引き出してよく見ると、なんと・・・黄土色。普通今はテープの色はこげ茶色が普通なのに、これは見事な黄土色。そしていざ撮ってみると、嵐のようなヒスノイズ。なにしろ、冒頭のクリーニングテープの所から既にノイズなんだから。しかも高音がうまく録音できない。全部、もやがかかったようなぼやけた低音になってしまう。
その上このテープがまあ、よく延びるんだまた。こんなにヘッドに引っかかるテープは今まで見たことが無い。私も昔、TBSの電リクで、岡田有希子の「くちびるネットワーク」を録って聞いてたら、曲の真中辺りで、岡田有希子の声が急に小さくなったかと思ったら、「キュルキュルキュル」いやなきしみを立ててテープは見事、切れてしまった。そして翌日新聞を開いたら、岡田有希子が四谷のビルから飛び降り自殺をしたというニュースがでかでかと・・・。まあ、心霊現象なんて物は全然信じないこの私ですが、でも少し気味悪かった。それもこれも全てこの「BON」のテープのせいだ。まったくもう。
しかしこの「BON」テープも、私が高校生のころからか、パッタリと見かけなくなってしまった。時期をはっきりとは覚えていない。その頃私は茨城にいた。「BON」の事なぞすっかり忘れ、毎日ただ怠惰に学生寮と高校との間を往復する日々が続いていた。「『BON』の事など調べてる暇があったら、ちゃんと公民の勉強をしろ公民を!」などとよく担任の教諭に、茨の鞭で頭ベシベシ叩かれた・・・なんてことはなかったのである。
しかし「BON」というメーカー、今でも存在するのだろうか。全く無駄な事と知りつつも、その消息を知りたくて仕方がない昨今である。


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