踊るカンカン


月亭可朝『借金のタンゴ』

クイーンレコード QR−1005






月亭可朝。八方破れの芸風と生き方で、一部に熱烈なファンを持つ個性派落語家。参議院全国区に立候補し落選、そして逮捕、果ては仏壇のお灯明の火が倒れて自宅が全焼など、この師匠の人生は余りに波乱万丈すぎる。その体験談やエロ話を、カンカン帽にギターというスタイルで、『ほんまにほんまですわ。いや、ほんまやからね。』という合いの手を入れながら淡々と話す漫談は、実に味わい深い。また、レコードで最初に大ヒットを出した落語家としても特記されるべき存在である。あまりにも有名な『嘆きのボイン』。『ボインは 赤ちゃんが吸うためにあるんやでー』という歌詞は、日夜房事にいそしんでいた日本のお父さん方に猛省を促させ、以後日本における出生率の大幅な低下を招いたことは有名な事実である。その意味で可朝は、『サンガー博士』に比類する、産児制限の父と言っても過言で・・・無い。 その可朝師匠が、借金返済のため、インディーズで出したのが、この『借金のタンゴ』である。ジャケのチープさ(なんだ右側の変なビキニした濃ゆい顔の姉ちゃんは)、色使いの単純さなどはともかく、このこの曲は、歌詞が素晴らしい。波乱の人生の果てに、可朝師匠がたどり着いた、あまりにもポジティブすぎる人生観が我々の心を打つ。
『借金と貯金はたいして変わりはない
借りているか貯めているかの違いだけ』
どうだこのポジティブさ! これを単なる詭弁だという人もいるかも知れないが、これくらいの心持で行かないと、現代の不況にあえぐ日本は渡っていけません。また、常にこういう思考法をしていると、精神的に楽になります。その代わり実生活は火の車になるでしょうが。 
このレコードは恐らく有線落ちであるが、『可朝』の横に、何故か『はっと』と振り仮名が振ってある。いつもカンカン帽だからって、そりゃないだろ。ひょっとしたら、弟子の八方、ハッチと間違えたのか? 更にその振り仮名に×がついてて、『かちょうだろー』と書いてあるのが間抜けでよい。この間違いのために、上司にねちっこく叱られたりしたのかな。そうしたら可哀想だ。


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