アイドルルンルンルン


浦辺粂子『わたし歌手になりましたよ』

テイチク RE−651






歌手とは何であろう。ただ音程のついた言葉らしき物さえ唸っていれば、歌手と呼んでしまって差し支え無いのであろうか。たとえそれが老婆の口の端から気まぐれに漏れる吐息だったとしても、我々はそれを音楽として認識しなければならないのだろうか。そんな根本的な疑問に突き当たってしまう1枚である。だいたい歌手本人より、バックの児童合唱団の歌うパートの方が長いとはどういうことだ。浦辺のボーカル(というよりは語りに多少リズムのついた物)は、児童合唱団に辛うじてリズムを合わせている感じである。よれよれである。そんな脱力物の歌唱にも関わらず、浦辺はサビで、
「わたし、歌手になりましたよーーーーーぉっ!」
と、自身たっぷりに絶叫するのである。例え音痴でも曲が理解できなくても、本人が『歌手』だと宣言してしまえば勝ちなのだ、浦辺にとっては。この曲の思想性が、歌謡曲というジャンルの事実的な崩壊をもたらし、『イカ天』に始まる平成のバンドブームを生み出し、そして現在の日本の音楽業界の空洞化を招いたことは明らかな事実である。なおこの曲と同じように、ボーカルが全く歌を歌わず、コーラスの合間に喋るだけというパターンとしては、他に、高見山大五郎の『スーパージェシー』、きんさん・ぎんさんのシングル(2枚あるみたいだ)がある。中でも高見山の曲は別の意味で素晴らしいので、近日このコーナーで取り上げてみたいと思う。


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